法学一般 憲法 民法 刑法 民事訴訟法 刑事訴訟法 商法 行政法 基本法総合〔民法〕
【法学一般】
問2
6世紀の東ローマ帝国においてユスティニアヌス帝が編纂させた一群の法典(いわゆる市民法大全)に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1.市民法大全には歴代皇帝の発した勅法も数多く収録されているが、市民法大全の中でそれよりも大きな分量を占めているのは、法典編纂の時点から数世紀をさかのぼる時期に活躍していた法学者の学説を集成したものである。
2.ユスティニアヌス帝の統治した東ローマ帝国の国制は「専主政(ドミナトゥス)」とも形容され、そこでは皇帝による専断的な国家運営がされていたために、市民法大全はもっぱら市民の国家に対する公法的な義務の内容を定めるものとなっていた。
3.中世ローマ法学(いわゆる註釈学派および註解学派)において市民法大全は、同時代に適用されるべき実定法の法文としてではなく、古代ローマにおける法世界のありようを歴史学的に解明するための史料としてのみ用いられた。
4.「パンデクテン」という呼称は市民法大全に属する一法典に由来するものであるが、パンデクテン法学の備える高度の抽象性・体系性もまた、個別具体的な事案の解決には触れることなく抽象的な原理原則のみを定めた市民法大全にその源流をもつ。
正解:1
〔講評〕
本問は、西洋法の根幹の一つをなすローマ法についての問題です。正解は1で、市民法大全に歴代皇帝の発した勅法より数多く収録されているのは、法典編纂の時点から数世紀を遡る時期に活躍していた法学者の学説であり、これはDigestaと称されます。市民法大全に収録されている法文の多くは、現代的に分類するならば私法に属する内容でした(よって、2は誤り)。また、中世ローマ法学においては、歴史的な存在としての古代ローマ世界について解明しようとする視点は基本的に見られませんでした(よって、3は誤り)。さらに、パンデクテンという名称は学説彙纂のギリシア名から取られていますが、学説彙纂の法文には多くの事案に対して法学者が与えた具体的解決が示されています(よって、4は誤り)。
問8
つぎに掲げる条文は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下、「法」という)212条である。以下の記述のうち、同条の反対解釈を含むものをすべてあげた組み合わせとして、正しいものを1つ選びなさい。
第212条
留置担当官は、留置施設の規律及び秩序を維持するため必要がある場合には、被留置者について、その身体、着衣、所持品及び居室を検査し、並びにその所持品を取り上げて一時保管することができる。
2 第181条第2項の規定は、前項の規定による女子の被留置者の身体及び着衣の検査について準用する。
3 留置担当官は、留置施設の規律及び秩序を維持するため必要がある場合には、留置施設内において、被留置者以外の者(弁護人等を除く。)の着衣及び携帯品を検査し、並びにその者の携帯品を取り上げて一時保管することができる。
4 前項の検査は、文書図画の内容の検査に及んではならない。
ア.法212条1項および3項によると、留置担当官が被留置者の所持品または被留置者以外の者(弁護人等を除く。)の携帯品を取り上げて一時保管した場合には、その行為は留置施設の規律および秩序を維持するため必要があると認められている。
イ.法212条1項の規定によって男子の被留置者の身体および着衣を検査するときには、法181条2項の規定は準用されない。
ウ.留置担当官が被留置者の所持品を検査することができると明記する法212条1項は、被留置者以外の者の携帯品の検査は文書図画の内容の検査に及んではならないとする同条3項および4項を通じて、被留置者の所持品たる文書の内容の検査も可能である旨を定めている。
1.アイ 2.アウ 3.イウ 4.イ
正解:3
〔講評〕
本問は、反対解釈の理解を問う問題です。反対解釈とは、要件と効果からなるルールについて、要件(の一部)を否定すると効果が否定されるとする推論方法、またはその結果生じる解釈命題をいいます。文アは、法212条1項および3項に書かれている要件部分と効果の一部分を入れ替えた文であって、ルールの要件の否定も、効果の否定も含んでおらず、法212条の反対解釈を含んでいません。法212条2項は、同条1項によって女子が検査されるという要件が満たされた場合には、法181条2項の準用という効果が生じると規定しているところ、文イは、その要件と効果をそれぞれ否定した解釈論を述べており、法212条の反対解釈を含みます。さらに、法212条1項は被留置者の所持品の検査において文書の内容の検査をできるか明言していませんが、同条4項「前項の検査〔=被留置者以外の者の携帯品等の検査〕は、文書図画の内容の検査に及んではならない。」の要件と効果を否定して、被留置者の所持品の検査においては文書の内容を検査してもよいという解釈を導いており、法212条の反対解釈を含みます。以上より、法212条の反対解釈を含むのは文イと文ウであり、正解は3です。
【憲 法】
問7
北方ジャーナル事件判決(最大判昭61・6・11民集40・4・872)に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。
1.検閲は、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものをいい、裁判所による事前差止めはこれに該当しない。
2.表現行為に対する事前抑制は、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたりやすく、濫用のおそれがあるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きく、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容される。
3.公職の候補者等に関する表現が名誉毀損に該当する場合、①その表現内容が真実でなく、②それがもっぱら公益をはかる目的のものではないことが明白であって、③被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがある、との3条件がすべて満たされるときは、例外的に事前差止めが許される。
4.公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを命ずる仮処分命令を発するには、口頭弁論または債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えることを原則とするが、口頭弁論を開きまたは債務者の審尋を行うまでもなく、債権者の提出した資料によって、差止めの要件が満たされていることが認められれば、口頭弁論または債務者の審尋を経ないでも憲法21条の趣旨に反するものということはできない。
正解:3
〔講評〕
この問題は北方ジャーナル事件判決の理解を問うものです。
肢1は正しく、判決はそのように判示しています。この部分では、先例は、税関検査事件判決(最大判昭59・12・12民集38・12・1308)です。肢2も正しく、判決は事前抑制一般を対象に、そのように判示しています。
肢3は誤りです。正しくは①と②は「又は」で結ばれています。
肢4は正しいです。判決はそのように判示しており、実際、判決の事案では、審尋などは行われていませんでしたが、適法とされています。判決後に制定された民事保全法23条4項では、判決と同じ趣旨が規定されています。
したがって、正解は3なのですが、4を選択した受験生が多かったようです。
上の不正解の理由だけをみると瑣末なことを訊いて、受験生を引っかけている意地の悪い問題だと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
北方ジャーナル事件の要件は、刑法の規定を用いて説明するとすれば、刑法230条の2が定める阻却事由がない(=表現の自由の行使として認められない)ことを、「厳格かつ明確な要件」として求めていることになるはずです(行使が認められないから差止めが例外的に可能になる)。
このことが理解でできていれば、A「目的が専ら公益を図ることにあった」こととB「事実の真否を判断し、真実であることの証明があったとき」をともに求めている同条の阻却事由がないと言えるためには、AとBのどちらかが欠けていればよい(つまり➀と➁は「かつ」(=「条件が全て満たされる」)ではなく「または」で結ばれる)ことについて、判断に迷うことはないはずです。細かな知識を求めているのではなく、きちんと理解しているか否かが問われています。
【民 法】
2025年度法学検定スタンダード<中級>コース必須科目の民法について、正答率が1番低かった問題8と、正答率は必ずしも低くなかったものの成績の良し悪しとの相関が高くなかった問題15(いずれも問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。
問8
不動産を目的とする以下の担保物権のうち、登記することができないものを1つ選びなさい。
1.留置権
2.先取特権
3.質権
4.抵当権
正解:1
〔講評〕
不動産登記法3条は、登記することができる権利を列挙していますが、先取特権、質権、抵当権はそこに挙げられているのに対して、留置権はあげられていません。このため選択肢1が正解となります。
抵当権は最も典型的な担保物権としてよく勉強するでしょうし、不動産質権の対抗要件が登記であることは問題集に掲載された問題50の解説にも書かれており、これらの選択肢を選んだ人は多くありませんでした。誤答である先取特権を選んだ人が3割近くに達していましたが、これも不動産先取特権は登記できることは問題集に掲載された問題49の解説に示唆されており、留置権が物の占有を要件としていること(したがってそれを通じて権利の存在を知ることができること)も考え合わせれば、正解にたどり着けたのではないかと思います。
担保物権に限りませんが、ひとまとまりの制度は、互いに比較しながら例外をあぶりだして、知識を整理することが重要です。
問15
AB間で、AがBに100万円を貸し付け、Bが1年後にこれを返還するという内容の合意がされた。この場合に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。なお、AもBも商人でないものとする。
1.貸付けと返還の合意が口頭でされた場合、AはBに100万円を引き渡す義務を負う。
2.Bは、Aから受け取った100万円について、善良な管理者の注意をもって使用する義務を負う。
3.Bは、受け取った100万円を、弁済期が到来する前に返還することはできない。
4.利息を付すことについて合意がない場合、Bは受け取った100万円に利息を付けて返還する必要はない。。
正解:4
〔講評〕
消費貸借において、「貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない」(民589条1項)とされており、選択肢4が正解ということになります。正解率は6割弱といったところで、高くはないものの、まずまずといったところでした。もっとも、選択肢1を選んだ受験生も4分の1ほどに達したこと、さらに、成績の良い受験生の正解率が必ずしも高いわけではないことから、勉強が進んでいる学生でも、「諾成的消費貸借は要式契約である」という点の理解が必ずしも十分ではないことがうかがわれます。詳しくは問題集に掲載された問題96の解説を参照していただければと思いますが、諾成契約か要物契約か、あるいは不要式契約か要式契約かという違いが、実際の当事者の権利義務関係にどのような影響を生じるのかという具体的な結論に落とし込んで普段から勉強していくことが重要です。
【刑 法】
問13
以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1.Xは、木造2階建てのアパートの留守宅を物色したが、金品がみつからなかったことに腹を立て、同アパートの1階部分にある宅配業者の倉庫に侵入し、床板約5メートル四方を燃焼させる意思で新聞紙に火を放った。しかし、たまたまやってきた従業員がすみやかに消火したため、床板には燃え移らなかった。Xには現住建造物等放火罪の未遂罪は成立しない。
2.Xは、抵当権の設定されているX所有の家に1人で暮らしていた。Xは、この家に火をつけ、全焼させたが、周囲に住宅などはなく、公共の危険はまったく生じなかった。Xに非現住建造物等放火罪は成立しない。
3.Xは、A宅に住むAとその妻Bを殺害した後、A宅に火をつけ、全焼させた。Xは、A宅に住んでいるのはAとBだけだと思っていたが、実際にはその子CもA宅に住んでおり、Cは、外出していたため無事だった。Xには非現住建造物等放火罪が成立する。
4.Xは、マンションの駐輪場に停められていたA所有のバイクを燃焼させる目的で新聞紙に火を放った。しかし、マンションの住人がすみやかに消火したため、バイクには燃え移らなかった。Xには他人所有建造物等以外放火罪の未遂罪が成立する。
〔講評〕
本問は、正しい肢を1つ選ぶ問題で、正解は肢3です。正答率は2割程度にとどまっており、難しかったようです。肢3が錯誤の事例だったからかもしれません。放火罪に限ったことではありませんが、錯誤の事例では、犯罪の構成要件の客観面と主観面(故意)を丁寧に確認することが大切です。本肢の場合、客観面をみると、A宅にはCも住んでおり、放火当時、Cは一時的に外出していたにすぎません。一時外出では現住性は失われませんから、A宅は、AとBが殺された後も、客観的には、現にCが住居に使用する現住建造物等にあたります。これに対し、主観面をみると、Xは、A宅に住んでいるのはAとBだけだと思っていました。そして、Xが放火したのは、AとBを殺害した後でしたから、放火当時のA宅は、Xの認識においては、Xのほかに誰も住居に使用せず、かつ誰もいない建造物、つまり非現住建造物等にあたります。そうすると、Xは、主観的には非現住建造物等放火罪(刑109条1項)の故意で、客観的には現住建造物等放火罪(刑108条)という重い罪を実現したことになります。このように重い罪を実現したがその重い罪の故意がなかった場合、重い罪の成立は認められず(刑38条2項)、重い罪と軽い罪の構成要件が重なり合う限度で軽い罪が成立するとされます。現住建造物等放火罪と非現住建造物等放火罪の構成要件は、軽い非現住建造物等放火罪の限度で重なり合っているといえます。したがって、Xに非現住建造物等放火罪が成立します。
こうして正解にたどり着けるのですが、受験生の4割が、誤って肢4を選びました。他人所有建造物等以外放火罪(刑110条1項)には未遂の処罰規定がないことを知っていれば、肢4が誤りであることは簡単にわかるのですが、このことを知らなかったり、忘れていたりした受験生が多かったのかもしれません。意外に思われるかもしれませんが、放火罪で未遂が処罰されるのは現住建造物等放火罪と他人所有非現住建造物等放火罪のみで、予備の処罰も同様です(刑112条・113条)。覚えておきましょう。
【民事訴訟法】
以下では、基礎的な問題であるにもかかわらず、正答率があまり高くなかった3問を選んで講評します。
問2
当事者の確定に関する以下の記述のうち、訴状における当事者の表示を基準として当事者を確定すべきであるという見解について述べたものとして正しいものを1つ選びなさい。
1.Aの兄であるBが、訴状に原告としてAを表示して訴えを提起し、Aの名で訴訟行為を行っている場合、原告はBであると確定される。
2.Aの兄であるBが、訴状に被告として表示されているAの名で訴訟行為を行っている場合、訴状の表示をBに訂正することができる。
3.Aの兄であるBが、訴状に被告として表示されているAの名で訴訟行為を行い、原告の請求を認容する判決が確定した場合、この確定判決の既判力は原告とBの間に生ずる。
4.訴状に被告として表示されているAが訴え提起時にすでに死亡しており、相続人Bが訴状を受領していたことが、第1回口頭弁論期日に判明した場合、被告はAであると確定される。
正解:4
〔講評〕
本問は、当事者の確定基準としての表示説を適用したときの具体的な結論のうち正しいものを選ぶという基礎的な問題です。肢2を正解と判断した受験者がやや多かったので、これについて説明します。リード文にある通り、訴状において当事者として表示された人が当事者であるというのが表示説なので、訴状で被告として表示されたAが被告として確定します。それにもかかわらず別人物であるBを被告として表示しなおすためには、当事者として確定したAから別のBへと当事者を交代させるための特別な手続である当事者の変更が必要です。これに対して、訴状の当事者の表示が誤っているとしてこれを訂正するためには、訴状に当事者として記載されたAと訂正後のBとが同一人物であること(訂正によって当事者が別人物に交代しないこと)が必要です。つまり、訴状の表示の訂正は、訴状に表示された者の名字の記載が誤りであるというような場合に限って許されます。
問5
訴訟物理論に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。なお解答にあたっては、タクシーがその運転者(被告)の過失によって事故を起こして乗客(原告)が負傷したという1個の自動車事故について、実体法によれば、旅客運送契約の不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権の2つが競合して生じる場合を前提にすること。
1.旧訴訟物理論によれば、原告が被告に対して旅客運送契約の不履行に基づく損害賠償請求権を主張する訴えを提起した後に、同じ原告がその訴えにおいて同じ被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を追加して主張すると、訴えの追加的変更となる。
2.新訴訟物理論によれば、原告が被告に対して旅客運送契約の不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権の2つを1つの訴えで主張した場合、この訴えは請求の客観的併合となる。
3.旧訴訟物理論によれば、原告が被告に対して旅客運送契約の不履行に基づく損害賠償請求権を主張した訴えにつき請求棄却の判決が確定しても、その確定判決の既判力は、同じ原告が同じ被告に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を主張して提起した後の訴えには及ばない。
4.新訴訟物理論によれば、原告が被告に対して旅客運送契約の不履行に基づく損害賠償請求権を主張する訴えを提起した後に、同じ原告が同じ被告に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を主張する別の訴えを提起すると、後の訴えは二重起訴の禁止に反する。
正解:2
〔講評〕
本問は、2つの対立する訴訟物理論の適用結果が理解できているかを問う基礎的な問題です。設例における訴訟物の数は、新訴訟物理論では、競合して生じる実体法上の請求権の数が2つであるにもかかわらず1つとなります。これに対して、旧訴訟物理論では、競合して生じる請求権の数に対応して2つとなります(2つは別々な訴訟物となるという意味)。このことが理解できていれば、肢2以外の記述には矛盾がないことがわかるので、肢2を正解として選ぶことは容易です。
問9
原告は被告に対して200万円の貸金返還請求の訴えを提起した。原告は、200万円を被告に期限を定めて貸し渡したが、期限になっても200万円を返還しないと主張した。これに対する以下の被告の陳述のうち、理由を述べて原告の請求原因事実を否認しているもの(積極否認)に該当するものを1つ選びなさい。
1.200万円は原告からもらったとの陳述。
2.200万円を原告から受け取っていないとの陳述。
3.貸金200万円はすでに原告に全額弁済したとの陳述。
4.貸金200万円について消滅時効を援用するとの陳述。
正解:1
〔講評〕
本問は、いわゆる要件事実論の基礎知識にかかわる重要な問題です。正解が肢1か2かで迷った受験者が多かったようなので、この点を説明します。貸金200万円の返還請求の訴えの請求原因事実は、①200万円について返還する約束をしたうえで、②200万円の金銭の授受があったこと(民法587条)、さらに、③返済期限を定めたこと、④その返済期限が到来したことです。肢2の記述は、②の事実について特に理由をあげることなくこれを単純に否認(否定)しているだけなので、理由を述べて原告の請求原因事実を否認しているもの(積極否認)には該当しません。これに対して肢1の記述は、①の事実について、200万円は原告からもらったという理由を示して、返還する約束をした(借りる約束をしたという意味)ことを否認しているので、理由を述べて原告の請求原因事実を否認しているもの(積極否認)に該当します。なぜならば、同じ200万円を借りること(いずれ返すという意味)ともらうこと(返さなくてよいという意味)とは両立しない事実だからです。なお、肢1における被告の陳述には②の事実を認める趣旨も含まれますが、だからといって、①の事実を積極否認する趣旨が失われるわけではありません。
【刑事訴訟法】
未掲載
2025年度法学検定試験スタンダードコースの商法につき、相対的に皆さんの間違いが多かった問題として、問題3と問題7を取り上げて、講評を行いたい。両方とも、問題集にない新作である。
それでは、以下に問題3と問題7につき解説をしよう。
問3
株式会社の設立無効に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1.株式会社の株主は、株式会社の設立の取消しの訴えを提起することができる。
2.株式会社の債権者は、設立無効の訴えを提起することができる。
3.株式会社の設立無効の訴えは、株式会社の成立の日から2年以内に限り提起することができる。
4.株式会社の設立無効の請求を認容する確定判決も、請求を棄却する確定判決も、原告・被告以外の第三者に対する効力を有する。
正解:3
〔講評〕
問題3は、株式会社の設立無効に関する問題集の問題18を基礎としつつも、問題集の解説を基礎に選択肢を変更している。
特に、選択肢1は、持分会社に固有の制度であり、株式会社にはない「設立取消の訴え」について確認するものである。この点は、問題集の問題87の選択肢2で解説をしている。株式会社における設立無効の取扱いのみならず、株式会社と持分会社の違いについても知識を動員しなければならないため、スタンダードコースの問題の中では難しい問題となっていたかもしれない。以下選択肢毎に見ていこう。
選択肢1には誤りがある。株式会社と持分会社には「設立無効の訴え」が用意される(会社828条1項1号・834条1号)。これに加え、社員の個性が重視されている持分会社の社員および社員の債権者は、つぎのように持分会社の設立の取消しを請求することができる(会社832条)。社員であれば設立に係る意思表示を取り消せる場合に提起でき(同条1号)、社員の債権者であれば持分会社の設立が詐害行為となる場合に提起できる(同条2号)。設立取消しの訴えは、民法に対する特則と位置づけられ、持分会社の設立には民法424条等は適用されない(最判昭39・1・23民集18・1・87参照)。
他方、社員の個性が必ずしも重視されない株式会社の場合、資本充実を重視し、法的安定性を確保する観点から、設立の取消しは認められていない。このため、本肢が誤りであることがわかる。持分会社と異なり、発起人・設立時募集株式の引受人の債権者は明文の禁止規定がないため、詐害行為取消権を行使し、設立にともなう出資を取り消すことはできる(東京地判平15・10・10金判1178・2)。もっとも、資本充実を重視する観点から、株主の設立時発行株式の引受けに係る意思表示についても民法上の規定の適用は制限される(会社51条・102条5項・6項)。
選択肢2も誤りである。設立無効の訴えを提起することができるのは株式会社の株主、取締役、監査役、執行役、清算人、持分会社の社員、清算人に限られており、会社の債権者は提起することができない(会社828条2項1号)。会社債権者の有する債権は、会社の存在(設立の有効性)を前提としているため、設立の効力につきそもそも利害関係を有していないからである。
選択肢3が正しい肢であり、これが回答となる。常識的に違和感を覚えたかもしれないが、設立無効の訴えの提訴期間が設立の日から「2年」とされる(会社828条1項1号)。選択肢4は誤りの肢であるが、これを正しい選択肢だと思ったものが多かった。会社の設立の無効の訴えは会社の組織に関する訴えに該当し(会社834条柱書・同条1号)、その請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有する(会社838条)。しかし、請求を棄却する確定判決には、第三者に対する効力は認められない(同条反対解釈)。設立無効の訴えを提起した原告は、その訴訟活動により棄却されたという判決の結果を甘受すべきであるが、それ以外の株主等については、別の設立無効原因を発見し、未だ、提訴期間内であれば、裁判で争いうる状況が維持されることが望ましいと考えられたからである。よって、請求を棄却する確定判決が、原告・被告以外の第三者に対する効力を有するとする点が誤っている。これは、会社の組織に関する訴え一般に共通する理解であり、会社法制の構造的な理解をしてほしいところではある。
問7
株式の質入れに関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい
1.株式の質入れには、株式の発行会社の承諾は不要である。
2.株券発行会社の株式の質入れは、株券の交付により効力が生じ、質権者が株式の質入れを会社やその他の第三者に対抗するためには、株券の継続占有が必要である。
3.振替株式の質入れは、質権者の振替口座の質権欄への記載・記録により効力が生じ、質権者は自身の振替口座の質権欄への記載・記録により会社やその他の第三者に株式の質入れを対抗できる。
4.株式の質権者は、物上代位として、剰余金の配当によって株主が受けることができる金銭等を直接会社から受領することができる。
正解:4
〔講評〕
問題7は、これまで出題していない問題領域(株式に質権を設定する方法)に関する出題である。標準的な会社法のテキストでは扱われる会社法上の論点ではあるが、株式の譲渡に加え、担保に関する制度の理解がなければ、正解にたどり着けないため、この問題も法学検定試験スタンダードコースとしては高度な問題であった。
選択肢1は、正しい肢である。すでに示したように、質権の対象が指名債権であれば、譲渡の対抗要件に合わせ、債務者への通知とその承諾が対抗要件となる(民364条)。株式については、対抗要件が指名債権の譲渡と異なるため、指名債権譲渡を前提とする権利質の対抗要件を規定する民法364条の適用はなく(会社147条3項)、会社の承諾は不要である。なお、対抗要件が株主名簿への記載または登録のみである、①の会社法上の非株券発行会社については、株主名簿に質権者の名称・住所を記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができない(会社147条1項)が、質権者は、自身の名称・住所の記載を請求でき(会社148条)、会社はそれを拒絶できない。
選択肢2は、②の株券発行会社を想定した問題であり、正しい肢である。株券発行会社の株式の質入れは、株式の譲渡の効力発生要件・対第三者対抗要件に合わせ、株券の交付により効力が生じ(会社146条2項)、質権者が株式の質入れを会社およびその他の第三者の対抗するためには、株券の継続占有が必要である(会社147条2項)。質権者は、株式質の効果として、配当等につき物上代位権が認められ(会社151条)、株主に対する債権の弁済に充てることができる。もっとも、株券の交付と継続占有だけでは、会社は株式につき質権が設定されたたことも、誰が質権者かも知ることができない。このため、株式の質権者は、これだけでは、会社から直接に受領を受けることができない。受領を受けるためには、質権の設定を株主名簿に記載または記録することが必要になる(会社148条)。株主名簿に記載または記録された質権者を登録株式質権者といい(会社152条)、物上代位の対象となる金銭等は、質権者に引き渡さなければならない(同条・会社153条)。株主名簿に記載または記録されていない質権者を略式株式質という。略式株式質の場合は、質権者は剰余金の配当に相当する金銭を会社から直接受領できず、物上代位権を行使するためには、質権設定者(株主)に交付公布される前に差押えをしなければならない(民法350条・304条ただし書)。このため、すべての質権者が直接、物上代位の対象となる金銭等を会社から受領できないということで、選択肢4が誤りの肢となり、解答となる。
なお、①の対抗要件が株主名簿への記載または登録のみ(会社130条)である会社法上の非株券発行会社では、株主名簿に質権者の氏名等を株主名簿に記載または記録しなければ、対抗要件を具備できず(会社147条1項)、すべてが登録株式質となる。
選択肢3は、③の振替株式発行会社を想定した問題であり、正しい肢である。振替株式の質入れについては、質権者の振替口座における質権欄への記載・記録により効力が生じ(社債株式振替129条3項)、質権者は株式の質入れを会社およびその他の第三者に対抗できる(社債株式振替161条1項、147条1項)。なお、総株主通知の際には、振替機関は質権者の申出があった場合のみ、発行者に対して質権者の氏名・住所等を通知するとされる(社債株式振替151条3項4項)。通知の申出があれば株主名簿に記載され、登録株式質となる。
問9
以下のうち、判例によれば、取消訴訟の対象となる行政処分にあたらないものを1つ選びなさい。
1.道路交通法に基づく交通反則金の納付の通告
2.市町村が行う土地区画整理事業の事業計画の決定
3.市立保育所を廃止する旨の条例の制定行為
4.健康保険組合の被保険者の配偶者が被扶養者に該当しない旨の通知
正解 1
〔講評〕
正答は1で,3分の1以上の受験生がこれを選択していますが,4を選択した受験生が約3割いました。4については最新判例を素材にしたため,受験した時点でこの判例についての知識がなくてもさほど問題はありません。これを機に学んで下さい。ただし,1は古典的な重要判例,2と3は処分性を広く認めたことで知られる一連の重要判例の一つですので,これらの判例にいての知識があやふやであれば,問題です。未知の選択肢が出題されても,それに惑わされることなく,既存の知識を踏まえて冷静に正答を導くよう心がけてください。
【基本法総合〔民法〕】
2025年度法学検定スタンダード<中級>コース基本法総合の民法について、正答率が最も低かった問題10(問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。
問10単独親権者Aが未成年の子Bを代理して行う行為に関する以下の記述のうち、判例がある場合には判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。
1.Bの養育費にあてる目的でAが自己の名義で金銭消費貸借契約を締結し、その担保のためB所有の不動産に抵当権を設定する行為は、利益相反行為にあたる。
2.Aの治療費にあてる目的でAがB名義で金銭消費貸借契約を締結し、その担保のためB所有の不動産に抵当権を設定する行為は、利益相反行為にあたる。
3.第三者であるCがDに対して負っている債務について、その担保のためAがB所有の不動産に抵当権を設定する行為は、利益相反行為にあたらない。
4.AもBも相続人である相続について、Aが自ら相続放棄をすると同時に、Bを代理してBの相続放棄をする行為は、利益相反行為にあたらない。
正解:2
〔講評〕
親権者と子の利益相反に関する問題で、選択肢2を「誤り」であるとして選び取るべきところ、この選択肢を選んだ受験生が14.3%と最も少ないという結果になってしまいました。また、試験全体の出来・不出来と本問の正解・不正解はほとんど相関がなく、勉強の進んだ学生でも正解にたどり着くことができなかったようです。
判例によれば、親権者と子の利益が相反しているか否かの判断は、子を害しようとする親権者の動機・目的・意図などに立ち入ることなく、行為の外形から客観的にみて、子の利益を犠牲にして親権者が利益を得る関係にあるかどうかによって決まります(外形説・形式的判断説)。この基準によれば、選択肢2の場合は、子Bが借主となった金銭消費貸借について、Bの所有する不動産に担保を設定しているのだから、行為の外形上、Bの利益を犠牲としてAの利益を図る関係にありません(Aの治療費にあてるという目的は利益相反の判断にあたっては考慮されない)。選択肢3・4も同様に、行為の外形からして、Bの利益が害されることによってその分Aが利益をうるという関係にないため、利益相反に該当しません。これに対して、選択肢1のようにAが借主となった金銭消費貸借について、Bの所有する不動産に担保を設定することは、外形上Bの利益を犠牲としてAの利益を図っており、(Aの動機としてはBの利益を図るものであったとしても)利益相反行為となります。

