法学検定試験

2023年度 スタンダード〈中級〉コース 講評

法学一般  憲法  刑法  民事訴訟法  刑事訴訟法  商法  行政法  基本法総合〔憲法〕     

                                          →ベーシック〈基礎〉コース講評ページ

 

 【法学一般】

問5
 条文の枝番号に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.条文に付される枝番号には上限があり、「○○条の15」のように枝番号の数が10を超えることは許されない。
2.「条」の中の一部をなす「号」に対しては枝番号を付けられない。
3.過度の煩雑さを防ぐため、「〇〇条の△の□」のように枝番号の枝番号が存する条文を作ることはできない。
4.「条」の中の一部をなす「項」に対しては枝番号を付けられない。

正解:4

〔講評〕

 問題5は、条文の枝番号に関する理解を問う問題です。特定の文章・文・事項と対応づけられた「条」や「号」とは異なり、「項」はもともと1つの条文内での該当段落を探す便宜のために書かれているにすぎません。官報等においては「1項」に「1」と表記せず、「2項」以後に初めて「2」と表記する点からもそのことは窺えます。以上のような「項」の性質から、項には枝番号を付けないこととなっています。よって、正解は肢4です。酒税法10条7号の2などのように、「号」について枝番号が付されますし(肢2は誤り)、労働基準法32条3の2などのように、枝番号の枝番号が付された条文もあります(肢3は誤り)。

 

問10
 日本における法律専門職の養成制度に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.司法修習生は、司法試験に合格した者のなかから最高裁判所によって命じられ、少なくとも1年間の司法修習を受ける。
2.司法修習生考試に合格することで、判事補に任命される資格、副検事に任命される資格、弁護士となる資格を得る。
3.裁判所事務官になるためには、裁判所職員総合研修所入所試験に合格し、約1~2年の研修を受ける必要がある。
4.弁護士となる資格を有する者が、税理士となる資格を得るためには、税理士試験に合格する必要がある。


正解:1

〔講評〕

 問題10は、さまざまな法律専門職の養成制度に関する問題です。司法修習生は、司法試験に合格した者のなかから最高裁判所によって命じられ、少なくとも1年間の司法修習を受けることになっており(裁66条・67条1項)、肢1が正解です。司法修習生考査合格者が得られる資格の1つは副検事ではなく二級の検察官に任命される資格であり(肢2は誤り)、裁判所職員総合研修所入所試験に合格して一定の研修を受けるというのは裁判所書記官になる場合であり(肢3は誤り)、また弁護士になる資格を有する者は税理士試験合格者でなくても税理士となる資格を有しています(肢4は誤り)。

 

 

 

 【憲 法】

問7
 表現の自由に関する以下の記述のうち、判例に照らして、正しいものを1つ選びなさい。

1.少年事件の報道において、仮名を用いて、少年の法廷での様子や犯行態様の一部、経歴や交友関係等を記載した記事を掲載することは、事実を公表されない法的利益よりも明らかに社会的利益の擁護が強く優先されるなどの特段の事情がある場合に限り、プライバシーの侵害による不法行為とならない。
2.報道関係者の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、取材対象者との信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられるので、民事訴訟における、報道関係者への証言強制は、真実発見と裁判の公正が、取材源保護の利益に対して明らかに優越する場合に限り、許される。
3.新聞記者が公務員に対して執拗に秘密の漏示を要請することは、それが真に報道の目的から出たものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限り、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
4.インターネットの個人利用者による表現は、一般に信頼性の低い情報として受けとられるので、マス・メディアによる名誉毀損の場合とは異なり、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められないときでも、名誉毀損の罪に問われない。

正解:3

〔講評〕

 本問は、表現の自由に関する判例の理解を問うものです。肢3の外務省秘密漏洩事件の判例は重要判例なので、この判例を学習している受験者は容易に正答に辿りつけたと思われます。けれども、肢1や肢2を「正しいもの」とした受験者も相当数見受けられます。いずれも著名な事件の判例ですが、学習したことがない受験者にとっては、正答を絞り込んでいくことが難しかったかもしれません。
肢1は、長良川事件訴訟の判例です。判例は、本肢のような内容の記事につき、少年法61条の推知報道該当性を否定したうえで、プライバシーの侵害の成否については、「事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要」とする(最判平15・3・14民集57・3・229)としています。また、肢2について、判例は、取材源の秘密が「職業の秘密」(民訴197条1項3号)に該当することを認める一方で、「当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべき」(最判平18・10・3民集60・8・2647)としています。 
 報道の自由とプライバシー、取材の自由と裁判の公正など、対立する権利・利益との調整を判例がどのような規範を用いて行っているのか丁寧に理解しておく必要があります。肢3については問題集の問題37、肢4については問題41でそれぞれ解説してありますので、参照してください。

 

 

 

 

 
【刑 法】
問8
 予備罪に関する以下の記述のうち、判例がある場合には判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.Xは、事務所等に侵入して窃盗を働き、もし他人に発見されたときには、脅迫を加えて逮捕を免れることを計画し、これに使用する凶器として登山ナイフを持って、事務所等を物色しながら徘徊した。Xには強盗予備罪が成立する。
2.Xは、自暴自棄になり、X自身が所有し、Xが1人で暮らしていてほかに誰もいない一戸建ての住宅に放火して自殺することを企て、放火に使用するガソリンをガソリンスタンドで購入したが、購入した直後に思い直して放火することをやめた場合、Xには非現住建造物等放火予備罪が成立する。
3.Xは、A宅において強盗する意思で、凶器に用いる包丁を持ってA宅に向かうため自宅を出たが、強盗することをやめようと思い直して自宅に戻り、包丁を廃棄した場合、Xには強盗予備罪が成立するが、中止犯規定の適用も準用もない。
4.Xは、AからBを殺害したいとの意図を打ち明けられ、その殺害方法について相談を受け、殺害に用いるための毒物の入手を依頼されて、Aがこれを殺害に用いることを認識しながら、毒物を入手してAに手渡したが、Aは、その毒物を用いることなくBを絞殺した場合、Xには殺人予備罪の共同正犯が成立する。

正解:2

〔講評〕

  この問題は、予備罪に関して議論の対象となっている点を問うものである。予備罪は、これが規定されている条文も限られており、普段の学習においてなじみが薄いと思われる。その分、解答に迷った人が少なくなかったかもしれない。本問は、誤っている記述を選ぶ問題であり、正解は2である。
 肢3の事例では、強盗予備罪が成立することまでは問題ないとしても、中止犯規定の適用可能性はあるのではないかが問題となる。しかし、判例は、「予備罪には中止未遂の観念を容れる余地はない」と述べているのである(最大判昭29・1・20刑集8・1・41)。よって、肢3の記述は、正しい。
 肢2の記述は、放火罪に関するものである。108条の現住建造物等と109条1項の他人所有の非現住建造物等を客体とする放火については、未遂(刑112条)と予備(刑113条)を処罰する規定がある。一方、肢2の事例では、放火行為が予備段階にとどまっているが、Xが放火しようとした客体は、109条2項の自己所有の非現住建造物等にあたる。これについては、放火予備を処罰する規定が存在しない。よって、肢2の記述は、誤りである。 
 この問題において扱った予備罪は、殺人、強盗、放火に関するもので、いずれも重要なものである。今一度、予備罪の規定に関して、教科書等で確認されたい。

 

 【民事訴訟法】

問3
 裁判官の除斥に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

1.除斥の効果は、除斥の裁判がなくても、除斥事由があることによって当然に発生する。
2.自らに除斥事由があると考える裁判官は、監督権を有する裁判所の許可を得て、回避することができる。
3.除斥事由がある裁判官が判決に関与した場合、その判決には再審事由がある。
4.除斥事由は「裁判の公正を妨げるべき事情」一般であるとされている。


正解:4

〔講評〕

 本問は、裁判官の除斥に関する基本的な知識を問う問題ですが、正答率は高くありませんでした。その理由は、除斥と忌避についての区別が正しくできていないからではないかと思います。除斥事由は民事訴訟法23条1項各号で具体的に限定列挙されている一方で、同法24条1項は、忌避事由を「裁判の公正を妨げるべき事情」という抽象的な形で定めています。したがって、条文の基礎知識だけで、肢4が誤り(=正解)であることがわかります。また、多くの受験者は肢1を誤り(=正解)と考えたようです。しかし、除斥事由が存在することで除斥の効果はすでに生じており、除斥の裁判はそのことを確認する意味しかありません。この点でも、裁判があってはじめてその効果が生じる忌避とは違っています。

 

問10
 原告適格に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

1.給付訴訟においては、訴訟物である給付請求権を自らが有すると主張する者に原告適格が認められる。
2.形成訴訟において誰に当事者適格があるかは、一般には法定されている。
3.確認訴訟においては、訴訟物である権利義務関係が帰属する主体であると主張する者でなければ、原告適格が認められない。
4.給付訴訟の訴訟物である給付請求権が原告のものでない場合であっても、当該請求権について訴訟追行の権限がある者に原告適格が認められる。

正解:3

〔講評〕

 本問は、当事者適格の基礎知識を問う問題ですが、正答率が高くありませんでした。当事者適格(訴訟追行権)は少し難しい論点ですが、民事訴訟法の基本事項なので、授業に参加し、そして教科書を熟読して、正確な知識を習得することが求められます。訴えには、給付、確認、形成の3種類がありますが、訴えの種類ごとに、原告適格(原告として訴訟を追行する権限)の判断基準は異なります。肢1と肢2の記述は、このことを正しく説明しています。また、肢4の記述は、給付の訴えに関する第三者の訴訟担当の趣旨を正しく説明しています。肢3は、確認の対象である権利義務関係が帰属する主体でなければ原告適格が認められないのかという問題です。教科書には、確認の対象である権利義務関係が帰属する主体でなくても原告適格が認められる例として、2番抵当権者が原告になって1番抵当権者と抵当権設定者との間に1番抵当権が存在しないことの確認を求めることができるというものがあげられています。よって、これが誤り(=正解)となります。

 

 

 【刑事訴訟法】

問15
 以下の記述のうち、それぞれの被告人の供述において示されている事実を立証しようとする場合について述べたものとして誤っているものを1つ選びなさい。

1.被告人の供述を録取した書面(被告人の署名押印のあるもの)で、自己に不利益な事実の承認を内容とするものについては、当該供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、証拠能力が認められる。
2.被告人作成の供述書で、自己に有利な事実の存在を述べるものについては、当該供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、証拠能力が認められる。
3.被告人作成の供述書で、自己に不利益な事実の承認を内容とするものについては、任意にされたものでない疑いがあると認めるときは、これを証拠とすることができない。
4.被告人の供述を内容とする被告人以外の者の公判期日における供述で、被告人に有利な事実の存在を述べるものについては、被告人の当該供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、証拠能力が認められる。


正解:1

〔講評〕

 1.出題趣旨と本問を講評の対象とする理由
 本問では、被告人が公判廷外においてした各供述を用いて、「供述において示されている事実を立証しようとする場合」を前提としていますので、それらの供述は、当該事実の知覚、記憶、表現、叙述の各過程に誤りのおそれを含む伝聞証拠(刑事訴訟法〔以下、法律名を省略する〕320条1項)にあたります。この被告人の各供述に、いわゆる伝聞例外として証拠能力が認められるための要件についての理解を確かめることが、出題の趣旨です。
 本問では、正解率が29.5%にとどまり、刑事訴訟法の出題の中で誤答が目立つ結果となりました。また受験者の解答が各肢に分散していました。その原因として、一般に、証拠法の分野については学習が手薄になる傾向があることに加え、被告人の供述を含め、公判廷外供述に証拠能力が認められる場面としてどのようなものが想定されているのか、条文の文言を読むだけでは具体的なイメージがつかみにくい、ということがあるかもしれません(昨年も、検察官面前調書の証拠能力に関する問題の正解率が25.8%にとどまったため、この講評でとりあげています)。
 ※ 以下の解説については、2、3に先立ち、4から読んでもかまいません。

 2.322条1項が対象とする被告人の供述
 まず、検討の出発点となる322条1項本文は、被告人の公判廷外における供述である「供述書」(署名や押印はなくてもよい)またはその「供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるもの」について、供述の内容に着目し、被告人(=自己)に「不利益な事実の承認を内容とするもの」(前段)とそれ以外のもの(後段)とに分けて、証拠能力が認められるための要件をそれぞれ設定しています。被告人以外の者の公判廷外における供述に係る321条1項各号と異なり、誰の面前でした供述かということは、322条1項の要件には直接あらわれていません(被告人の公判準備または公判期日における供述を録取した書面については同条2項を参照)。
(1)322条1項前段
 さて、被告人の供述というとき、真っ先に思い浮かぶのは、自白(自己の犯罪事実の全部または主要部分を認める供述)ですが、自己に不利益な事実の承認には、その典型例である自白のほか、犯罪事実の一部のみを認める供述や、間接事実を認める供述が含まれます。
 不利益であるとは、その供述を基に刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがあることを意味し、たとえば、犯行の直前や直後に犯行現場にいた事実を認める供述は、自白のようにそれだけで犯罪事実を直接推認することのできる直接証拠ではありませんが、犯行の直前や直後に現場にいたならば物理的に当該犯行が可能であったといえるため、被告人が犯人である可能性(犯人であったとしても矛盾がないこと)を基礎付け、刑事訴追や有罪判決につながります。こうした間接事実を認めることも不利益な事実の承認にあたります。
 そして、322条1項但書は、不利益な事実の承認について、それが自白でなくても、「第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。」としています(自白にあたれば、319条1項が直接適用されます)。
 不利益な事実の承認を内容とする公判廷外供述の証拠能力が問題となるのは、被告人が公判廷において犯罪の成立を争い、黙秘または犯行を否認している事件です(公判廷において自白しているのであれば、その自白を用いれば足り、公判廷外供述を使用する必要はありません)。この場合、被告人は、公判廷では黙秘または犯行を否認する一方、公判廷外では犯行を認める供述をしているため、公判廷における自己の主張と両立しない公判廷外供述について(も)証拠能力を認めること(伝聞法則を理由に、公判廷外供述をなかったことにさせないこと)が公平であり、公判廷の内外で主張ないし供述が異なる理由については被告人側に説明する機会があることが、証拠能力が認められる理由とされます(もっとも、人は、通常、自分の利益に反する事実を隠しておきたい〔人は嘘をついてまで自分の利益に反する事実を暴露することはない〕にもかかわらず、供述を強いられたのであれば格別、利益に反することを認識しながら、任意にそのような供述をしたとすれば、その信用性は高いであろうという経験則が働きます。教科書などでは、そのことが、自己に不利益な事実の承認に証拠能力が認められる理由として援用されることも少なくありません)。
 (2)322条1項後段
 このほか、1項後段では、「特に信用すべき情況の下にされたものであるとき」(絶対的特信情況または絶対的特信性があるとき)にも、被告人の供述を証拠とすることができるとされています。すでに1項前段では、自己に不利益な事実の承認が上述の理由で伝聞例外とされ、1項後段に比べて緩やかな要件で証拠能力が認められていますから、同項後段はそれ以外の一切の供述を対象とするものと解されます。そこには、犯行時のアリバイなど被告人に有利な事実の存在について述べる供述のほか、被告人の身上関係のように、犯罪事実の認定に関わりのない事実を内容とするものも含まれます。
 自己に有利な事実の存在について述べる供述は、その内容に照らして類型的に高い信用性が認められるわけではない(むしろ、嘘や誇張も考えられる)ため、刑事訴訟法は、伝聞例外の要件について最も基本的かつ厳格な内容を定める321条1項3号と同様の要件を課したものと解されます。その要件とされる絶対的特信情況は、公判期日外において供述者が供述した際の情況が、それ自体として供述の信用性を担保しうるときに認められ、その存否については、供述時の情況が、一般に真実を述べることを要求され、またはそれが期待されるものかどうかなどを考慮しながら判断するものとされます。

 3.被告人の供述を内容とする他の者の供述
 322条1項が、供述書や供述録取書といった被告人の供述を内容とする「書面」を対象とするのに対し、被告人以外の者の公判準備や公判期日における「供述」で被告人の供述をその内容とするものを対象とするのが、324条1項です。
 たとえば、公判廷において証人Wが、「『被害者Vの左胸をナイフで刺して殺害した。』と被告人Xが言うのを聞いた。」という供述をした場合に、これをXの供述において示されている事実(Vの刺殺)の立証に用いるとき、Wの供述に含まれるXの供述については、322条1項の規定が準用されます(Xの供述は自白であり、不利益な事実の承認にあたるので、1項前段の問題となります)。

 4.本問についての考え方
 以上述べたことを踏まえ、本問の1から4までの肢を確認すると、肢1と3の、不利益な事実の承認を内容とする供述は、供述録取書であろうと供述書であろうと、任意性があれば、証拠能力を認めることができ(1は誤り、3は正しい)、また、肢2と4の、有利な事実の存在を述べる供述は、書面であろうと他人の供述に含まれていようと、絶対的特信情況があれば、証拠能力を認めることができる(2、4ともに正しい)ので、正解は1ということとなります。
 本問の各選択肢は、一見すると、様々な要素が複雑に組み合わされているように見えますが、被告人の公判廷外供述のうち、不利益な事実の承認を内容とするものと、有利な事実の存在を述べるものについて、証拠能力が認められるための要件をそれぞれ理解していれば、見た目に惑わされずに、正解にたどりつくことのできる問題だったといえるでしょう。
 321条以下に規定される供述は多種多様ですが、伝聞例外の学習に際しては、証拠能力が認められるための要件を単に暗記するにとどまらず、その書面を用いることが必要となる具体的な場面と対応させながら、それぞれの要件がどのような考慮と結びついているかを確認する方法が、迂遠に感じられはするものの、知識を有機的に定着させ、理解を深めるのに有効だと思います。

 

 

 

 

 
【商法】
 2023年度法学検定試験スタンダードコースの商法につき、相対的に皆さんの間違いが多かった問題として、問題3と問題13を取り上げて、講評を行いたい。両方とも、問題集にない新作であり、これまで問題集で出題されていたものと異なる切り口で問うたり、問題集で扱っていないテーマについて問うたりしている。法学検定試験スタンダードコースは、問題集から7割程度の出題がされ、残りの3割程度は新作である。法学検定試験問題集は、それだけでも体系的な学習や知識確認に資するように構成されている。しかし、問題は100題程度であり、全てのテーマを網羅することは難しい。その点でも、標準的な教科書で学習をし、その知識や体系的な理解の確認に問題集を使うことを想定している。問題集だけの学習ではなく、標準的な教科書と往復することで、会社法・商法に関する理解を涵養してほしい。
 以下、問題3と問題13についてコメントをしよう。


問3
 株式会社の発起設立における定款の記載・記録事項に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

1.発起人が金銭以外の財産を出資する場合、出資をする者の氏名または名称、当該財産およびその価額ならびにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数を定款に記載・記録しなければその効力を生じない。
2.株式会社の成立後に財産を取得する契約を株式会社の成立前に発起人が締結する場合、当該財産およびその価額ならびにその譲渡人の氏名または名称を定款に記載・記録しなければその効力を生じない。
3.株式会社の成立により発起人が受ける報酬は、当該報酬とそれを受ける発起人の氏名または名称を定款に記載・記録しなければその効力を生じない。
4.発起人は、支払った定款の認証の手数料について、設立費用として定款に記載・記録しなければ、成立後の株式会社に求償することはできない。 。

正解:4

〔講評〕

 問題3は設立に関する基礎的な問題である変態設立事項を確認する問題で、2023年問題集には載っていない問題である。これまで問題集では発起設立と募集設立という2つの手続の違いを確認する問題が多かった。しかし、募集設立という手続が利用されることは現実には少ない。設立手続が簡易化・迅速化している現在では、早期に会社を設立した後に事業を開始し、実績を踏まえて出資者を募ることの方が望ましいからである。この点を考慮して、問題3は設立手続自体に焦点を当てている。
 変態設立事項は、定款に記載・記録しなければ、効力が認められないものである(会社法28条)。出資者(発起人)間で不平等が生じる可能性があることから、発起人全員の署名がなければ成立しない定款に記載することで、出資者・発起人が納得をして変態設立事項を実施することで、不平等が生じる問題に対処する。
 変態設立事項は、現物出資(会社法28条1号)、財産引受け(同条2号)、発起人報酬・特別利益(同条3号)、および設立費用(同条4号)である。これらは、出資されたとされる額を基礎とする資本金・資本準備金に相当する財産の額が出資されていない可能性があったり、会社の成立前に出資された財産を費消してしまう可能性があるために、厳格な手続が必要とされる。
 出資が金銭で行われれば、発起人の出資額の評価は一義的となり、それを基礎に株式を割り当てても出資者間の不平等は発生しない。しかし、出資が現物でなされれば、当該現物の価値の評価は客観的には定まらない。このため、金銭ではなく現物を出資する、現物出資の対象となる財産やその価格、割り当てる設立時株式の数を定款に記載することで、その者の出資の評価について発起人相互間で納得をすることができる。
 なお、現物出資に対して割り当てる株式の払込金額の合計額に相当する財産が会社に払い込まれなければ、資本金・資本準備金の額に見合う資産が会社にないことになりかねない。このため、現物出資には検査役調査が必要とされる(会社法33条1項~9項)。もっとも、現物出資は、会社の事業開始の迅速化に役立つ面があり(会社の事業に必要な現物財産を発起人が有している場合には、当該現物出資をしてもらうことが便宜である)、一定範囲で、検査役調査が免除される(会社法33条10項)。
 このように、現物出資については、その全ては定款に記載しなければならないが、一定範囲で検査役調査が免除される。
 財産引受けは、会社成立後に譲り受けることを約した売買契約であるが、実務的な必要性を考慮しつつ、現物出資の潜脱を防止するために、その全てについて変態設立事項として定款に記載しなければ効力が生じないとし、一定範囲で検査役調査を免除するとして、現物出資と同様の規制を課す。
発起人報酬・発起人に供与する特別利益は、お手盛り防止の問題が生じるため、変態設立事項として定款に記載しなければならない。設立手続は簡易化されているため、あえて、発起人に報酬を支払わなければならないほどの職務が発起人にあるわけではない。このため、変態設立事項として、発起人に報酬や特別利益を供与する場合の全てにつき定款に記載しなければならず、検査役調査が必要とされる。
同様に、設立手続に際して必要となる費用について、発起人が負担せず、会社の負担としうるものについては、変態設立事項として、定款に記載・記録しなければ,成立後の株式会社に求償することができず(会社法28条4号)、その全てについて検査役調査が必要である(会社法33条1項)。もっとも、設立手続に際して必要となる費用のうち、法律が常に必要とし、その額のにつき発起人の裁量が入る余地がないものについては、このような厳格な手続に服する必要はない。このため、会社に損害を与えるおそれがない、定款の認証の手数料、紙媒体で作成される場合の定款にかかる印紙税、設立時発行株式に関する金銭の払込みの取扱いをした銀行等への手数料、検査役調査のための検査役に対する報酬そして設立登記の登録免許税については、規制の対象から除外される(会社法28条4号カッコ書、会社法施行規則5条)。よって、設立手続において必要となる費用のうち、会社の負担とするものの一部について、定款記載と検査役調査の両方が要求されないものがある。
問題3は、現物出資(選択肢1)、財産引受け(選択肢2)、発起人報酬(選択肢3)、および、設立手続に要した費用である定款の認証手数料(選択肢4)のうち、定款記載が必要でないものがどれかを尋ねるものである。以上の解説からは、選択肢4が正解となる。
 変態設立事項については、検査役調査が免除される範囲に着目しがちだが、規制の全体像をイメージできるような丁寧な学習を期待する。

問13
 株式会社の資本金や準備金の減少に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.資本金の額の減少や準備金の額の減少の効力を争うためには、訴えによらなければならない。
2.資本金の額の減少に際しては会社債権者に異議を述べる機会を与えなければならないが、準備金の額の減少に際しては原則としてその必要はない。
3.資本金の額の減少についてその効力を争う訴えを提起できる債権者は、承認をしなかった債権者だけである。
4.欠損が生じていない会社において資本金の額を減少した場合、当該減少額を準備金に繰り入れない場合には、その他利益剰余金に組み入れられる。

正解:3

〔講評〕

 問題13は資本金および準備金減少に関する理解を問う問題で、こちらも2023年問題集には載っていない問題である。問題集ではこれまで資本金および準備金減少の手続全般に関する理解を問う問題はなかった。しかし、令和6年税制改正で、地方税たる法人事業税の外形標準課税で、従前、資本金の額を基準とし,資本金1億円超の株式会社が課税対象とされていたのが、資本金減少が行われ、資本金の額が1億円以下となった場合にも、資本金とその他資本剰余金の合計額が10億円以上の場合には、課税対象とするとされる。これは、COVID-19の急激な事業環境の変化に対応するために、資本金額の減少が実行され、法人事業税の回避がされていたことに対処するものである。このように、近時注目を浴びる資本金減少・準備金減少に焦点を当てる点で、時宜に適った出題であり、社会の動きを見つつ、関心をもって会社法の学習をしてほしいというメッセージがこの出題には込められている。しかし、受験者の多くが大学生であり、大学の講義では、資本金減少・準備金減少を含めた会社の計算は,科目の最後の方で教授され、十分な余裕をもって教えられることが少ない箇所でもある。この点で、受験者にとっては難易度の高い問題ではあった。
 資本金は、株主が設立・株式発行に際して払い込んだ財産の額である(会社法445条)。
株主が出資する財産は、会社の元手であり、それを基礎に事業を行うことで会社は利益を上げる。株式会社においては、出資については全額払込主義が採用され(会社法34条1項、63条1項、208条1項。なお、新株予約権については、新株予約権を行使した日に株主となるが〔会社法282条1項〕、全額の払込みがされた後でなければ、株主の権利を行使できない〔同条2項〕)、株主の責任は、株式の引受価額を限度とし(会社法104条)、払込みがなされれば、株主は責任を一切負わなくなる(これを有限責任という)。会社債権者にとっては、会社に財産がなければ、自身の債権に関する債務の履行を担保することが難しくなり、会社から株主に会社の財産が流出すれば、株主に責任追及することができない。会社債権者の利益を保護しようとすれば、会社から株主への財産流出は防止すべきといえる。他方で、株主が出資をするのは、会社の事業運営によって生じた利益により、会社財産が増殖し、自身の株式の価値が上昇することを期待するからである。出資の払戻しが禁止される中では、株式の譲渡(会社法127条)によらなければ、換金できない。しかし、株式を譲渡すれば、もはやその会社との投資関係はなくなってしまう。このため、定期的に剰余金の分配として配当をすることで(会社法453条)、株式の金融商品としての魅力を高めている。会社債権者保護の要請と株式の金融商品としての魅力を高めるという要請とを調整するために、会社法は分配規制を整備する(会社法461条)。大雑把に言えば、会社の資産から負債(会社の債務総額)を控除した残りの純資産が、株主の取り分となるが、その純資産のうち、株主の出資した「元手」を越える部分を配当が可能となる上限額(分配可能額。会社法461条2項。分配可能額の算出の出発点は剰余金〔会社法446条〕である)と設定する。
 会社法は、株主の出資の額の半分は資本金とせずに資本準備金とすることができるとする(会社法445条2項・3項)。資本取引を原資とする準備金が資本準備金であり(会社計算26条1項)、利益項目を原資とする場合は利益準備金となり(会社計算28条1項)、両者を合わせて準備金という(会社445条4項)。
資本金の額・準備金の額は減少させることができるが(会社法447条・448条)、その手続の厳格さに差があり、資本金と比較して、準備金の方が減少させやすい。いわば、会社債権者保護の「本丸」が資本金であり、準備金は「二の丸」としてそれに準じた機能とされる。問題13の選択肢1~3は、この差を確認するものである。
 選択肢1は、誤りの肢である。資本金の額の減少について効力を争うためには訴えによらなければならないが(会社828条1項5号)、準備金の額の減少については条文がないため、訴え以外の方法によっても効力を争うことが可能である。
 選択肢2は、資本金減少・準備金減少に関する債権者異議手続について確認する。すでに見たように、資本金・準備金が減少すると、会社債権者は害される可能性が増加することを意味するため、会社債権者に異議を述べる機会を与える必要があるのが原則である(会社449条1項)。もっとも、準備金については、減少させた準備金の額を全部資本金に繰り入れる場合(会社449条1項第2カッコ書)、または、定時株主総会において欠損の額の範囲内で準備金を減少させる場合(会社449条1項ただし書1号・2号)には、債権者に異議を述べる機会を与える必要はないとされる。前者は、より取り崩しにくい資本金となるため、会社債権者には有利となるためであり、後者の場合は、欠損の填補であれば、分配可能額が増加せず、会社債権者の利害に大きな差を生じさせないからである。以上から選択肢2も誤りである。
 選択肢3は、資本金の額の減少の無効の訴えを提起できる債権者について確認する。提訴できる債権者は、額の減少について承認をしなかった債権者であり(会社828条2項5号)、選択肢3は正しい。なお、異議を述べなかった債権者は額の減少について承認したものとみなされる(会社449条4項)。
 選択肢4は、会計の基本原則を踏まえた取扱いを確認する。企業の会計では、資本項目と利益項目の間で額を融通させることは、原則としてない。資金の出元が株主からの出資である資本項目と、同じく出元が会社の業務からの利潤である利益項目とを混同すると、会社の営業成績が正しく表示されなくなるからである。資本項目から生じる剰余金を資本剰余金といい(会社計算26条・27条参照)、営業活動から生じる剰余金を利益剰余金という(会社計算28条・29条参照)。それゆえ、資本金を減少した額は、その他利益剰余金ではなくその他資本剰余金に繰り入れられることになる(会社計算27条1項1号)ため、選択肢4は誤りである。
 以上のように、会社の計算の基本的な役割や構造を理解していれば、素直な問題ではあるが、会社の計算は、会計学の知見を基礎とする。ヒト・モノ・カネの結合が会社の基本であることから、広く関心をもって、標準的なテキストなどで学習をしてほしい。

 

 

 

 

  【行政法】
問15
 申請型義務付け訴訟に関する以下の記述のうち、法令および判例に照らして、正しいものを1つ選びなさい。

1.申請型義務付け訴訟を提起する際に併合提起した取消訴訟について請求を認容する理由がない場合、裁判所は、当該義務付け訴訟について棄却する旨の判決をすることになる。
2.申請型義務付け訴訟は、不作為の違法確認訴訟とは異なり、職権発動の端緒としての申出がなされ応答がない場合でも提起することができる。
3.申請型義務付け訴訟は、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。
4.行政庁が一定の裁決をすべき旨を命ずることを求める申請型義務付け訴訟は、処分についての審査請求がなされた場合において、当該処分の取消しの訴えまたは無効等確認の訴えを提起できないときに限り、提起することができる。

正解 4

〔講評〕

 本問は、申請型義務付け訴訟の訴訟要件に関する理解を問う問題でした。同訴訟では、申請に対して、応答がない場合には不作為の違法確認訴訟を、拒否処分がなされた場合には当該処分の取消訴訟または無効等確認訴訟を併合提起することが訴訟要件とされています(行訴37条の3第3項)。したがって、申請型義務付け訴訟は、行政庁が応答義務を負う申請を前提にしており、肢の2のように、職権発動の端緒にすぎない申出の場合には提起することができません。申請権がない申出等に応答がない場合には、直接型(非申請型)義務付け訴訟を提起することが考えられます。肢3は、直接型義務付け訴訟の訴訟要件です(行訴37条の2第1項)。両義務付け訴訟の訴訟要件の定め方の違いについて、条文を確認することが学習するうえで有益です。最判平21・12・17判時2068・28によれば、併合提起された取消訴訟について「取り消されるべきもの」であることが申請型義務付け訴訟の訴訟要件とされているため、当該取消訴訟に理由がない場合、申請型義務付け訴訟は不適法なものとして却下されることになります。肢1は、上記判例に関する知識を問うものです。
 申請型義務付け訴訟は、申請拒否処分に対する審査請求が却下又は棄却された場合にも提起することができます。しかし、一定の裁決を求める義務付け訴訟は、原処分の取消しの訴えまたは無効等確認の訴えを提起できないときに限り、すなわち、裁決に対してのみ訴えの提起が認められる裁決主義が採用されているときに限り提起できます(行訴37条の3第7項)。肢4は、原処分の違法は原処分の取消訴訟等でのみ主張できるとする原処分主義(行訴10条2項)や裁決主義に関する理解も問われるため、若干高度であったと思いますが、この機会にあらためて申請型義務付け訴訟に関する条文について、復習してください。

 

 


【基本法総合〔憲法〕】
問4
 違憲審査・憲法判断の方法に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

1.当事者によって違憲の主張がなされても、裁判所は事件の解決のために憲法問題の判断が必要でなければそれを回避すべきだとする憲法判断回避の原則は、付随的審査制の趣旨に由来する。
2.法律の一部が違憲と評価される場合において、違憲判断を避けるような法律の解釈を行う手法は、合憲限定解釈とよばれる。
3.最高裁判所は、国籍法違憲判決において、適用違憲の手法を用いて当事者の救済をはかった。
4.最高裁判所は、猿払事件判決において、下級審のとった適用違憲の手法を批判し、国家公務員法による政治的行為の制約の合憲性を認めた。

正解:3

〔講評〕

 本問は、違憲審査・憲法判断の方法について問うものです。憲法訴訟論としては基本的な問いですが、この分野については学修が及んでいない人が多かったためか、正答である肢3よりも、肢1を選択した人が多いなど、正答率が大変低くなりました。
正答(誤った記述)は肢3です。国籍法違憲判決において用いられたのは適用違憲ではなく、部分違憲の手法です。部分違憲(一部違憲)とは、法令の規定の一部を違憲とする憲法判断の方法です。国籍法違憲判決(最大決平20・6・4民集62・6・1367)は、婚姻関係にない日本人父と外国人母との間に生まれた子が日本国籍を取得するためには、父母の婚姻およびその認知による嫡出子の身分を取得することを要するとしていた当時の国籍法3条1項を、父母の婚姻まで要求することは過剰であり憲法14条1項に反するとしました。その際、同条項のうち、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を違憲とする部分違憲の手法をとることにより、同条項の残りの部分を残存させ、その規定によって原告たる子の国籍取得の途を開きました。このような方法をとったのは、同条項がすべて違憲だとすれば、国籍を認める根拠規定が失われることになり、法改正のない限り原告は国籍を取得できないことになるからです。そこで、本判決では、部分違憲という手法によって救済がなされたことになります。
 ほかの選択肢は正しい記述です。肢1や2は教科書に説明があるような基本的事項ですので、しっかり確認しておくようにしてください。肢4は個別の判決の知識を問うものですが、猿払事件一審判決(旭川地判昭43・3・25下刑集10・3・293)は適用違憲の実例としてよく挙げられますので、この機会に知っておくとよいでしょう。これに対して最高裁判決(最大判昭49・11・6刑集28・9・393)は、「法令が当然に適用を予定している場合の一部につきその適用を違憲と判断するものであつて、ひつきよう法令の一部を違憲とするにひとし」いと批判しました。

 

→ベーシック〈基礎〉コース講評ページ

法学検定試験トップページ

処理中です…

このままお待ちください。