法学検定試験

2023年度 ベーシック〈基礎〉コース 講評

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 【法学入門】

問4
 代表的な法令用語である「及び」や「又は」等に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

1.わが国の法令において「及び」という語を含む条文の数と「並びに」という語を含む条文の数では、後者のほうが少ない。
2.複数の語句を併合的に接続する場合において、段階づけがなされるときには、より大きなレベルでは「並びに」、より小さなレベルでは「及び」を用いて接続する。
3.わが国の法令において「又は」という語を含む条文の数と「若しくは」という語を含む条文の数では、後者のほうが多い。
4.複数の語句を選択的に接続する場合において、段階づけがなされるときには、より大きなレベルでは「又は」、より小さなレベルでは「若しくは」を用いて接続する。

正解:3

〔講評〕

 問題4は、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」という代表的な法令用語に関する基礎的な理解を問う問題です。複数の語句を選択的に(orの関係で)結びつけるときは「又は」を使うのが基本で、段階づけがなされるときにはじめて「若しくは」を用います。段階づけがなければ、「又は」しか使わず、「若しくは」がある条文は、より大きなレベルでの「又は」を必ず含みます。そのため、「又は」を含む条文が「若しくは」を含む条文より常に多いのです。肢3の記述は誤りです。とくに肢2、肢4の記述を誤りと考えた方は、「及び」「並びに」、「又は」「若しくは」の使い方を改めて確認してください。

 

問9
 ADR(裁判外紛争解決手続)に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.裁判所は、法律上の争訟を裁判する機関であるから、ADRを行うことはない。
2.第2次世界大戦後まもなく設立された労働委員会は、労働問題に関するADRにたずさわる行政機関である。
3.ADRには公正な第三者が関与しなければならないことから、民間団体の関与は認められていない。
4.ADRの手法の1つである仲裁とは、中立的な第三者が、当事者の話し合いや交渉を促進するというものである。

正解:2

〔講評〕

 問題9は、ADR(裁判外紛争解決手続)に関する問題です。労働委員会は、労働関係の公正な調整を図ることを目的として、労働組合法に基づき設けられているもので、国の機関である中央労働委員会と、都道府県の機関である都道府県労働委員会の2種類があり(労調19条2項)、労働争議のあっせん、調停および仲裁の事務(労組19条の2・20条)等の権限を有します(肢2が正解)。肢4にある「仲裁」とは、紛争の解決を仲裁人に委ね、その判断に当事者が服することを合意するものを言います。中立的な第三者が当事者の話し合いや交渉を促進するのもADRのあり方の1つですが、これは調停の手法です。

 

 

 

 【憲 法】

問3
 人権の類型に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.自由権とは、国家が個人の領域に対して権力的に介入することを排除して、個人の自由な意思決定と活動とを保障する権利をいうが、表現の自由や職業選択の自由はこれに含まれるものの、財産権はこれに含まれない。
2.社会権とは、社会的・経済的弱者が「人間に値する生活」を営むことができるように、国家の積極的な配慮を求めることのできる権利をいい、請願権や生存権、教育を受ける権利などがその例である。
3.参政権とは、国民が国政に参加する権利をいい、具体的には選挙権や被選挙権に代表されるが、憲法改正国民投票や最高裁判所裁判官の国民審査も参政権に含まれると考えられている。
4.国務請求権は、裁判を受ける権利や国家賠償請求権がその代表例であるが、これらは自己のために一定の作為を国家に請求する権利である点や社会国家の思想に基づく権利である点で、社会権と共通の性質を有する。

正解:3

〔講評〕

 
本問は、人権の類型に関する基本的な理解を問うものでした。
本問は正しい肢を答えさせるものであり、正解は肢3でした。ただ、多くの受験生は肢2を選択していたようです。肢2の記述は、たしかにその大半において正しい内容となっていましたので、そのせいで早合点してしまった人が多かったのかもしれません。しかし、この肢2には短答式問題特有の「引っかけ」が存在していました。それは請願権が社会権の一例としてさりげなく列挙されていたことです。これを見落としてしまっていた人は、安易に肢2を選択してしまったのではないでしょうか。
 また、請願権を社会権と勘違いしてしまった人もいたかもしれません。社会権とは、資本主義の高度化に伴って生じた失業・貧困・労働条件の悪化などの弊害から、社会的・経済的弱者を守るために保障されるに至った20世紀的人権であり、「国家による自由」ともいわれるものです。その限りで、肢2に書かれていることのほとんどは正しい内容です。しかし、日本国憲法では、社会権は憲法25条から28条までに規定されており、請願権はここには含まれません。したがって、請願権を社会権の一例として挙げている肢2は誤りとなります。
 請願権は、一般に国務請求権に分類されるものです(ただし、請願権の参政権的役割に着目し、これを参政権に分類する立場もあります)。国務請求権は、国家による作為を請求する権利ですので、たしかにその作用の仕方という部分では、社会権と共通する面を有しています。しかし、社会権が社会国家の思想に基づくものであるのに対して、国務請求権は自由国家の延長線上にあるものであり、基本権を確保するための基本権として保障されてきたものです(国務請求権の成立に、失業・貧困・労働条件の悪化という自由国家の弊害の経験は、理論上必要としません)。このような意味において、国務請求権は社会権とその淵源を異にします。
 今後、人権の類型を学習する際には、単にその機能面だけに着目するのではなく、その人権の淵源にも着目するとよいのではないでしょうか。

 

 

 【刑 法】

問13
 背任罪に関する以下の記述のうち、判例がある場合には判例に照らして、正しいものを1つ選びなさい。

1.背任罪の主体は「他人のためにその事務を処理する者」(事務処理者)である。買主が代金を支払う事務は自己の事務であり、「他人の」事務ではないから、買主が売主に代金を支払わない場合、背任罪は成立しない。
2.背任行為とは「任務に背く行為」(任務違背行為)をいう。株式取引は、取引の性質上一定のリスクは不可避であるから、ある組織の資金運用担当者が、裁量の範囲を逸脱し当該組織の内部手続規則に違反する冒険的な株式取引により「本人」たるその組織に財産上の損害を加えても、背任罪は成立しない。
3.背任罪が成立するためには、故意の他に「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」(図利加害目的)が必要である。主たる動機は自己の保身目的であるが、それがひいては本人の利益にもなると考えた場合は、図利加害目的があるとはいえないから、背任罪は成立しない。
4.背任罪が成立するためには「財産上の損害」が加えられることが必要である。無担保で回収の見込みのない貸付けをしたが、後に第三者が損害を補填した場合には「財産上の損害」はないから、背任罪は成立しない。

正解:1

〔講評〕

 
本問は、背任罪の成立要件である「事務処理者」、「任務違背行為」、「図利加害目的」、「財産上の損害」の理解を試す問題です。  正解は1です。背任罪が成立するためには、「他人のためにその事務を処理する者」=事務処理者であることが必要です。「その」事務とは、「他人=本人」の事務をいいますから、他人のためであっても、自己の事務にすぎない場合は、「他人のためにその事務を処理する者」とはいえません。問題文にあるような買主の代金支払いは、買主が自分自身の義務を果たすものにすぎませんから、「自己の事務」であって、「他人の事務」ではありません。したがって、買主が売り主に代金を支払わない場合、背任罪は成立しません。
 肢2,3,4は誤りです。「任務に背く行為」とは、事務処理者としての法律上の義務(信義誠実義務)違反をいいますが、具体的には、法令、通達、内規、規定、定款、業務内容、契約、委任の趣旨等をもとに、事務処理の通常性を逸脱していたかどうかによって判断されます。冒険的な株取引であっても、それが事務処理の通常性を逸脱しない限り、任務違背行為にはなりませんが、それが当該組織の事務処理に関する規定や定款、内部手続規則に違反し、裁量の逸脱が明白な場合には任務違背行為となります。
 肢3を選んだ受験生がやや多かったのですが、「ひいては本人の利益になる」と考えたとあることから、また「保身目的」とあることから、「自己図利」目的とはいえないと考えた受験生が多かったのかもしれません。「図利加害目的」は、本人図利目的の場合に背任罪の成立を否定する要件ですから、従として本人図利目的があったとしても、主として自己・第三者図利目的であれば図利加害目的は認められます(主として本人図利目的という逆の場合は図利加害目的は認められないことになります)。また、「図利」は、主たる動機であることから、財産的利益に限らず、身分上の利益もこれに含まれます。したがって、主たる動機が自己の保身目的である場合は、図利加害目的が認められることに注意してください。
 財産上の損害とは、経済的見地から見た全体財産の減少をいいますから、一方で経済的損失があっても、他方でそれ以上の反対給付がなされた場合は、財産上の損害はないことになります。無担保で回収の見込みのない不良貸付けの場合は、貸付けの反対給付として貸付額と同額の債権を取得しますが、その債権は財産的には無価値ですから、回収の見込みのない貸付けをした段階で財産上の損害が発生しており、その後に全額が回収されたとしても、背任罪は未遂ではなく既遂になることに注意してください。

 

 

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