法学検定試験

2022年度 ベーシック〈基礎〉コース 講評

ベーシック〈基礎〉コース


【法学入門】  【民法】  【刑法】   

【法学入門】
問4
 つぎの条文(著作権法46条の全部)のなかの「二」のよび方として,正しいものを1つ選びなさい。

著作権法
第46条
 美術の著作物でその原作品が前条第2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は,次に掲げる場合を除き,いずれの方法によるかを問わず,利用することができる。
一 彫刻を増製し,又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し,又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し,又はその複製物を販売する場合

1 .著作権法46条2号
2 .著作権法46条1項2号
3 .著作権法46条2項2号
4 .著作権法46条2項

正解:1

〔講評〕

 問題4は,条項の表記の仕方またはよび方を問う問題です。この条文には項が1つしかなく,その場合は,第1項とはいいません。第1項とよぶのは,第2項以下がある場合に限られます。冒頭に漢数字がある項目は「号」を付けて」よびます。この条文では,1号から4号まであります。よって,肢1の「著作権法46条2号」が正解です。なお,1号の前にある文章を柱書(はしらがき)といいます。


問10
 以下の記述のうち,「リベンジポルノ防止法」と略称される法律の目的規定の記述として,正しいものを1つ選びなさい。なお,以下の法律の目的の記述は,一部省略してある。

1 .この法律は,インターネット異性紹介事業を利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為等を禁止する……こと等により,インターネット異性紹介事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪から児童を保護し,もって児童の健全な育成に資することを目的とする。
2 .この法律は,犯罪により害を被った者……の受けた身体的,財産的被害その他の被害の回復には困難を伴う場合があることにかんがみ,刑事手続に付随するものとして,被害者及びその遺族の……被害の回復に資するための措置を定め……,もってその権利利益の保護を図ることを目的とする。
3 .この法律は,私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに,……当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めることにより,個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止することを目的とする。
4 .この法律は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み,……児童買春,児童ポルノに係る行為等……を処罰するとともに,これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護することを目的とする。

正解:3

〔講評〕

 問題10は,近年の立法の1つである「リベンジポルノ防止法」の立法目的に関する問題です。正式な法律名(「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」)を覚える必要はありませんが,報道などでよく話題となる法律の略称とその大まかな目的・趣旨には関心をもっていただければと思います。肢1は「会い系サイト規制法」,肢2は「犯罪被害者保護法」,肢4は「児童ポルノ禁止法」の各々立法目的を示しています。正解は肢3です。リベンジポルノが法律用語を用いてどのように規制されているかを,まずは立法目的の規定だけでよいので,今一度確認してみてください。

【民 法】

 2022年度法学検定ベーシック〈基礎〉コース民法の問題について,ここでは,正答率が1番低かった問題14と,2番目に低かった問題13を取り上げて講評します。いずれの問題も,問題集には載っていない問題ですが,問われていることは制度のごく基本的な内容であり、思ったよりも正答率が伸びなかったという印象を受けました。問題集や教科書をどのように読むべきだったのかを,これら2つの問題で確認しておきましょう。
問14
 以下の契約のうち,有償契約ではありえないものを1つ選びなさい。

1.使用貸借
2.請負
3.委任
4.寄託

正解:1

〔講評〕

 契約は、大きく有償契約と無償契約に分かれますが、それに関連する問題で、無償契約である選択肢1(使用貸借)を選択するものでした。なお、物の貸し借りを有償で行うと、賃貸借という別の契約類型になります。
 むしろ誤答である選択肢3(委任)と選択肢4(寄託)を選んだ受験生の方が多かったという結果だったのですが、委任と寄託はいずれも、条文上、無償が原則とされつつも特約によって報酬を定めることができる(648条1項、665条)とされており、「有償契約ではあり得ない」とはいえません。
 本問自体は問題集に掲載されていないものの、関連する情報が問題集の問題80、89、90にも掲載されています。毎年講評の中で述べていますが、問題集を用いて学習するときに、その問題文や解説文の情報を1つ1つ理解し、問題集に現れているのと表現とは違った出題をされても対応できるようにすることが重要だと感じます。また、類似する契約と比較することでその契約類型の特徴を把握するということも重要です。


問13
 相殺の要件に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.相殺は,履行地が異なる債務の間では,することができない。
2.相殺は,弁済期が同一の債務の間でなければ,することができない。
3.相殺は,同種の目的を有する債務の間でなければ,することができない。
4.相殺は,金額が異なる金銭債務の間では,することができない。

正解:3

〔講評〕

 民法505条が定める法定相殺の要件について正しいものを答える問題であり、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合」という条文の文言に適合する選択肢3を選択するものです。基本的な要件に関する問題でありながら、正答率は4割強にとどまっており、また、民法をよく勉強をしている受験生にも間違えた学生がいるようです。
 誤答の中では、選択肢2や選択肢3を選ぶものの割合が高くなっていました。このことからすると、「対立する債務がともに弁済期にある」ということの意味が分かっていない(両債務で弁済期が異なっていても、一方の弁済期が徒過したまま放って置かれて、他方の弁済期も到来することがありうることなどが想像できていない)、あるいは「対当額で消滅する」という相殺の効果の意味がわかっていない(債務の金額は異なっていてもよく、消滅する金額が「対当額」と定められている)のではないかと想像されます。単に書かれている要件を覚えるだけではなく、1つ1つの要件や効果がどのような場面を念頭において定められているのかをイメージしながら学習することで、この種の問題に対応する力が身につくのではないかと思います。

【刑 法】

問5
 正当防衛(刑法36条1項)が成立するための要件に関する以下の記述のうち、判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.行為者が侵害を予期していたからといって、直ちに侵害の急迫性が失われるわけではない。
2.防衛行為は、防衛の意思をもってなされることが必要であり、相手の加害行為に対し憤激または逆上して反撃を加えたときには、防衛の意思を認めることはできない。
3.防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、正当防衛のための行為と認めることはできない。
4.急迫不正の侵害に対する反撃行為は、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち、防衛手段として相当性を有することが必要である。

正解:2

〔講評〕

 正解は、選択肢2である。
 判例は、正当防衛が成立するために防衛の意思が必要であるとしているが、憤激または逆上して反撃を加えたからといって、ただちに防衛の意思を欠くものではないとしている(最判昭46・11・16刑集25・8・996)から、選択肢2は誤りである。そして、防衛の意思と攻撃の意思が併存していても防衛の意思を欠くものではないとする一方、防衛に名を借りて積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛のための行為と認めることはできないとしている(最判昭50・11・28刑集29・10・983)。よって、選択肢3は正しい。判例について、防衛の意思の内容をより実質的に認識することが必要である。


問11
 自動車で通行人をはねて重傷を負わせた運転者が、その事実に気づいた場合に関する、以下の記述のうち、判例・裁判例がある場合には判例・裁判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.被害者を放置して逃走したが、被害者の負傷が生命に危険が及ぶ程度にまでは至らず、人通りも多く、救助される可能性が高い場合には、殺人未遂罪も保護責任者遺棄罪も成立しない。
2.被害者が要保護状態にあることを認識し、いったん自動車に乗せながら、事故の発覚を恐れて、途中で被害者を放置して逃走した場合には、保護責任者遺棄罪が成立する。
3.被害者が要保護状態にあることを認識し、いったんは病院に搬送しようと自動車に乗せながら、事故の発覚を恐れて気が変わり、すぐに救命措置を取らなければ被害者が死亡するかもしれないことを予見しながら、そのまま走行を続けている間に被害者が死亡した場合には、殺人罪が成立する。
4.被害者を放置して逃走したが、被害者が、すぐに救命措置をとっても助からない致命傷を負い、まもなく死亡した場合、殺意があれば殺人罪、殺意がなければ保護責任者遺棄致死罪が成立する。

正解:4

〔講評〕

 正解は、選択肢4です。期待された作為(救命措置)を取っても助からない(結果回避不可能である)場合には、不作為と死亡結果との間の因果関係が否定されますから、既遂(殺人罪、保護責任者遺棄致死罪)は成立しません。この場合、殺意があれば殺人未遂罪、保護責任者遺棄の故意があれば保護責任者遺棄罪が成立することになります。なお、結果回避不可能な場合には、法は不可能を強いないのであるから、作為義務、保護責任も生じないとする見解からは、実行行為性が否定され、殺人未遂罪も保護責任者遺棄罪も成立せず、先行行為である過失運転致死罪にとどまるとされています。正答率が低かったのですが、被害者を放置して逃走し、被害者が死亡したという事実に、救命措置を取っても助からない致命傷を負っているという事実が加わっていることの法的意味に注意してください。
 選択肢1、2、3は正しい記述です。選択肢1を選択した受験生が極めて多かったのですが、被害者の負傷が生命に危険が及ぶ程度にまでは至っておらず、また、人通りも多く救助される可能性が高いということは、被害者の生命の安全は運転者の手に委ねられているとはいえないことを意味しますので、作為義務、保護責任は生じるとはいえません。選択肢2、3と比較してみてください。判例においても、単純なひき逃げに保護責任者遺棄(致死)罪、殺人罪の成立を認めたものはなく、多くは、選択肢2、3のように、いったん自己の自動車に被害者を乗せた(自己の支配領域内に置いた)後に遺棄・不保護の意図が生じた場合であることに注意してください。

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